君の手が道しるべ
「まあ、あんたらしいよね、そういうとこ。人の気持ちがわかりすぎて、それをビジネスに過剰に持ち込むとこ」

 嫌味なのか、ほめているのか、真意をはかりかねている私に、史子はため息をつく。

「人の気持ちがわかるのは長所だよ。だけどね、仕事では、それを乗り越えてやらなきゃならないこともあるよ。決断を迷ってる相手に引きずられてたら、契約なんて取れない。太田さんが悲しそうに見えたなら、それを越えていける提案をしなくちゃ。そして、契約に持っていかなくちゃダメなのよ。わかる?」

「うん……まあ、わかるけど」

「藤柳さんの強引さも、仕事では重要な能力だってことよ。好きか嫌いかは関係なくね」

 私は黙って、目の前に置かれたグラスを見つめていた。史子の目を見ることはできなかった。
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