君の手が道しるべ
爆弾投下。
明日、朝早いから帰るね、と史子が席を立ったけれど、一緒に帰る気にはなれなかった。

「お疲れさま。――ありがとね」

 小さくつぶやくように言うと、史子が軽く眉を上げて微笑んだ。

 そのままさっそうと店を出て行く史子の後ろ姿は、いつ見ても自信ありげで、頼りがいがある、男前の背中だ。

 いつだったか本人にそう言ったら「うれしくない!」と怒られてしまったけど。

 史子を見送って、そのまま視線を伏せる。

 史子に言われて、やっとわかった。

 いや、違う。

 本当はもう、とっくの昔にわかっていたんだ。

 認めたくなくて、気づかないふりをして、ずっとごまかしてここまで来たけど、もう、それもできない。

「やっぱり……無理なんだ」

 口に出してみると、ますますはっきりと自分の中の気持ちが形になっていく。もう、頑張ることも、自分をだますこともできない。じわりと両目に熱いものが浮かび上がり、止める間もなくほおをすべり落ちていく。

 そのときだった。

「なに、ひとりでしめっぽく飲んでるんですか」

 皮肉な物言いに、私は驚いて顔を上げた。そこにいたのは、あきれたように私を見下ろす大倉主査だった。

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