君の手が道しるべ
「大倉主査、きょう休みなんだって。つまんないの」

 朝礼後のデスクで梨花が栞ちゃんに話しているのが聞こえてきて、私は内心ほっとした。

 あんなことを言われて、どんな顔して会えばいいのかわからなかったから、申し訳ないけれど休んでくれてありがたい。まあ、いずれはどうしたって会わないわけにはいかないし、あの言葉に対する何らかの返答もしなければならないけど。

 太田さんの一件があって以来、梨花は私を露骨に無視している。

 もちろん仕事上で私の検印が必要なときもあって、そういう場合は無言で書類を私の机に置いていくのだけど、それ以外ではまったく話そうとしないのだ。

 本部にまで訴えたのに私が異動にならないことも腹立たしいのだろう。

 でも私は別に気にならなかった。

 あのとき――太田さんが何かを考えていたあのとき、無理に話を進めていれば、確かに何かしら契約にはなっただろう。

 でも、そんなふうに強引に取った契約なんていつかきっとお客様が不満を感じる。そのとき自分がまだ同じ支店にいて、そのお客様を担当しているとは限らないのだ。負の時限爆弾はいつ爆発するかわからない。クレームという形で。

 だから私は引いたのだ。

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