君と描く花言葉。
作業に没頭し始めた成宮くんに声をかけることもできなくて、立ち尽くす。
私、ここにいていいのかな。
目の前に広がるお日様が降り注ぐ世界は、別世界のようにしか見えなくて。
自分が酷く場違いなように思えてくる。
……あ。アトリエの向こう側に、どこかに繋がっている通路がある。
もしかして、あれが家に繋がってるのかな?
このコップ、どこから出てきたんだろうって思ったけど。
ひゅう、とどこからか風が吹く。
よく見ると、このアトリエの壁のガラスのうち、いくつかは窓らしい。
風に吹かれたお花たちが、ゆらゆらと揺れた。
ざわざわと葉っぱの擦れる音がして、まるで森にいるような感覚にさえ陥った。
素敵だなぁ、こういう空間。
静かで落ち着いていて、街の喧騒から切り離された場所。
アトリエにも端っこの方にベンチが備え付けられているのを見つけて、そっとそこに腰掛ける。
丁度その位置は成宮くんの左斜め後ろあたりで、成宮くんも、成宮くんの描いている絵も、そのモデルの花も綺麗に見える場所だった。
まるで、成宮くんが絵を描くのを特等席で見ているみたい。
横の机にコップを置いて、成宮くんを観察する。
さっき描き始めたばかりだったはずの成宮くんは、もう絵の具に手をつけていた。
下書き、もう終わったんだろうか。
成宮くんのパレットには、やっぱり赤色は出されていなかった。
立ち上がって、お日様の中に入ってみる。
少し、ベンチのところよりも暖かい。