無知、時々天然な
血と涙 -trueー

髪からしずくが落ちる。ポタッという音が、静寂を貫いている部屋にこだまする。立ち尽くしていた私は、しゃがみ込み、床に落ちたしずくにそっと触れた。そして、驚く。触れたしずくが、生温かくて。
 にわかに、部屋が明るくなった。明るくなったとき、必ずついてこなければならない音がこのときはなかった。そして私は何気に思う。照明がついていたことさえ、気が付いていなかったと。 
 そこでふと、背後を首だけで見る。
「はぁ、はぁ」
 息遣いが荒く、両手に鈍器を持った若い男が立っていた。男が手にしている鈍器に、赤いものが付着していた。私はどういうことか、その赤いものを美しいと感じた。そしてその赤いものを、もっと近くで感じたいと思い、男から鈍器を奪おうとした。
「な、何だ?」
 あっさりとかわされてしまった。私は男の疑問ともとれる先程の言葉に答えるかのように、或いは、独り言かのように、声を発す。
「...その赤いの、欲しい」
「はぁ?」
 何故分からないの。この男は、私に意地悪をしているの。
 苛立ちながらも、言葉を紡ぐ。
「あなたが持っているのに付いている、赤いのが欲しい」
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