いつか、星の数よりもっと
☆8手 天満星に誓う



貴時はひとり自転車を漕いで家路についていた。
補助輪は取れているので大きな音はしないものの、ライトの点灯するギュウーン、ギュウーンという重い音が響く。
小学生になってからまもなくして、貴時はひとりで大槻将棋教室に通うようになったけれど、学校に知られればきっと禁止されてしまうので、誰にも言っていない。
そして、そのことを唯一知っている緋咲が誰かに告げ口するなど疑ってもいなかった。

だから貴時の“趣味”が将棋であることはみんな知っていたけれど、アマチュア初段という段位を持つことまでは知られていないはずだった。

アマチュア初段とは、もちろん個人差はあるけれど、ある程度ひとつの目標となる段位である。
ぼんやり指しているだけでは取れず、そこそこの勉強と経験がなければ到達できない。
申請すれば連盟から棋士の直筆署名入りで免状ももらえるため、大人でも目標とする人はたくさんいるレベルだ。
従って、将棋を始めて一年、小学一年生で初段というのは、“異例”の部類に入る。
小さな地方都市でそれは、どんなに隠していても目立った。

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