ありがとう。-先輩、もう会えないのですか-
「ごめんなさい、本屋さんで長居しちゃって...い、今から帰ります」
 通話の向こう側の声のトーンが本気だったので、気弱な声になってしまった。
『...ったく』
 粗目に通話を切った母親だったが、金橋は急いで家へ向かった。

「寒...」
 9月と言えど、中間服ではやはり夜の肌寒さは凌げない。冷たい風が金橋の淡雪のような肌を突き刺す。消えかかる頼りない街灯が、家路までの道を示してくれていた。やがて、家の近所にさしかかった。金橋宅と隣接している家が見えてくると、心が重くなった。怒られる覚悟で家に入ろうと、唾を飲み込みながら足を進めた。
 ふと、お隣の『佐藤さん』が玄関前に立っていた。佐藤さんは人が良く、たまに煮物などをおすそわけしてくれたりする。
 金橋は挨拶をしようと、息を吸い込む。そこで、佐藤さんが振り向いた。
 そうして、硬直。
「......」
 話しかけようとした体勢で止まってしまった。
 理由と言えば、それは
「.........?」
 立っていたのが、美少年だったからだ。
 黒いセーターを着て、デニム生地のジーンズを履いていた。金橋の奇行に驚いたか、美少年はハテナマークを浮かべていた。
 見開かれた焦げ茶色の瞳は、雪のような肌のせいで余計際立つ。黒髪の乱れ方が、色っぽさを引き立てていた。
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