この世に生まれてくれてありがとう〜形のない贈り物〜
真紀子には、二つの選択肢が与えられた。一つは赤ちゃんを産むという選択。そしてもう一つは……中絶をするという選択だ。

中絶とは何か、誠はわかっている。赤ちゃんを殺すということだ。背筋がゾッとなる。

中絶と聞いて、真紀子は混乱しているようだった。そんな真紀子に先生は冷静に言う。

「あまり考えている時間はありません。中絶できる期間は限られています」

「そんな……」

「ですが、これだけは忘れないでください。どちらの選択を選ぼうとあなたは間違ってはいないんです」

真紀子はふらふらとした足取りで、家へと帰った。

そして、そのままベッドの上に寝転びお腹を撫でる。誠はその様子をじっと見つめた。

赤ちゃんとお母さんはへその緒を通じてずっと繋がっている……。中学の保健の授業で習ったことがある。

今も真紀子とお腹の中の赤ちゃんは、繋がっている。

お腹を撫でる真紀子の表情は、産婦人科にいた妊婦のようだった。

その日の夜は、誠はいつも以上に長く感じた。新月の夜。暗闇の中で、真紀子はずっとお腹を撫で続けた。その目には、涙があった。
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