月は紅、空は紫
 霊的な話となるのだが、京の街中に流れる『気』が狂うことがある。
 それは、ひと月続いて流れが狂っていたり、はたまたその後は半年ほど流れが安定していたりと、実に気紛れなものである。

 ただ、その『気』の流れが狂うときに、前触れというか象徴的な出来事が起こる。
 それが――『紅い月』である。

 まっとうな自然現象として月が赤く見えることはある。
 大気によって、光の短波長、つまり光の中に含まれている青や緑といた色調が散乱させられてしまうのである。
 これは地表近くに光源がある場合によく発生する現象であり、夕日が赤いのと同じ理屈だ。
 月が高くまで昇れば、月はいつもの黄金色を取り戻す。

 しかし――『紅い月』は違うのだ。
 常人が見ても、それとは気が付かないほどに薄く色付いた月。
 月が紅い夜には、何故か人間も妖の心も怪しく揺らされる――。

 月から発せられる光が、地上の気を乱すのか。
 それとも地上で乱れた気が、月の光を紅く染めてしまっているのか。
 清空の一族にさえ、その理由は分かっていない。
 だが、昔から月の紅い夜は何かが起こってしまう夜なのである。

 清空は、広い京の町を、一晩かけて歩き回っていた――。
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