水月夜
わかってるから、いちいち言わないでほしい。


心の中でため息をついて、駆け足で直美を追い越す。


すれ違う生徒たちが目を丸くするのもおかまいなしに、猛ダッシュする。


あっという間に昇降口に着き、息を整えながら直美が来るのを待つ。


しばらくたっても来ないので、学校指定のローファーにはきかえる。


すると、私より息を荒くさせた直美が視界に現れた。


「はぁ……っ、はぁ……っ。梨沙、足速すぎ。もっとスピード落として……」


直美は超がつくほど足が遅くて、私たちの学年で一番の鈍足。


派手な見た目で運動もできると思うだろうが、直美は運動音痴だ。


だったら勉強もできるのかと言われるとそうでもなくて、学期末テストでは下から数えたほうが早いほど頭が悪い。


私は人のことが言えない立場だけど、少なくとも直美より運動はできるし、勉強の出来も私のほうが上。


正直、直美のことを心の底から親友だとは思っていない。


直美の前で言いたいことは言えないけど、言いたいことを言わせてもらえないことが多い。
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