水月夜
オッケーもなにもしていないのに私の席にやってきて、『ここの問題教えて!』と言ってくる。


教室内の決定権は直美にあり、誰も直美に逆らうことができない。


その理由は、誰も直美の弱点を知らないからだ。


親友である私でさえも知らない。


お互いの秘密を明かしてこそ、本当の意味で親友なのではないだろうか。


親友になってもう10年もたつけど、直美はいまだに自分の弱点を見せたことがない。


足が遅くて勉強ができないというだけで対抗することができそうだけど、直美はそれらを弱点とは思っていないらしい。


本当に直美はなにを考えているかわからない。


眉をハの字にして、直美がこちらまでやってくるのを黙って見つめる。


「梨沙、あんたやっぱり足速すぎるよ。次からは私のペースに合わせてよ……」


「うん、わかった。ごめんね、直美」


私が軽く謝ると、直美は満足そうな顔をして私の肩に手を置く。


わかればいいんだ、わかれば。


そう言われた気がして心がざわついた。


やっぱり私は直美のこと……。


心の中で言いたいことを言おうとしたそのとき。
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