水月夜
ハキハキとした口調でそう言う私。


たとえ雨宮くんが久保さんを責めても、久保さんに罪はない。


だから、久保さんを責められない……。


心の中でそうつぶやいたところで雨宮くんから目をそらし、背を向けて走りだした。


「……私、帰る!」


「あっ、おい!」


背中から雨宮くんの声が聞こえてきたが、その声を振りきるように、ちょうど駅のホームにやってきた電車の中に体を滑らせる。


車内は行きのときより人が少なく、ところどころ空席が目立つ。


適当に席に座り、近くから聞こえる話し声に耳をすませる。


そして、その数十秒後、電車は動きだした……。
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