ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「……小春?」

 私はいい。颯馬さんへの想いがあるから。こうしてカモフラージュのためでも、彼が私のためにこれを用意してくれたという事実がたまらなく嬉しかった。でも、たとえ彼にとってはただの金属の輪っかでも、永遠の愛を誓うその指に通していいの?

「はい」

 私のより少し大きなそれが手のひらに乗せられる。颯馬さんは、甲を上にして左手をこちらに出した。

 そうか。これが私の選んだ関係。自分が勝手に好きになったからといって、変えていいものじゃない。なにがあっても、この先も互いの心に踏み込まずに生きていかなければならないんだ。

 そうすれば、ずっとそばにはいられる。伝えなければ。悟られなければ。

 小さく息をつく。私は強固な決意とともに、彼の少しごつっとした指にゆっくりと指輪を通した。颯馬さんのは宝石がない、揃いのデザインのもの。泣きたいくらいに綺麗だった。

 私はこの夜、颯馬さんの妻でいるため、心を殺すことに決めた。
< 109 / 175 >

この作品をシェア

pagetop