ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「嬉しくて、私……」

 胸が熱くなり、涙が出そうになってうつむく。大切に、もう片方の手で指輪を包み込んだ。すると、伸びてきた颯馬さんの手が私の髪をかきわけて頬に触れる。

 見上げると、颯馬さんは慈しむような眼差しでこちらを見つめていた。

 心臓の音が異様に亢進する。頬がみるみる赤くなっていくのがわかった。

「小春。俺は――」

 颯馬さんがなにかを言いかけて、飲み込んだ。侘しげな微笑みを浮かべた彼が、小箱から残った指輪を手に取って私に差し出す。

「俺にもつけて」

 ――えっ?

 私がはめていいの? 本当は、颯馬さんには他にこれを渡したい人がいるのに?

 なかなか受け取らない私に、颯馬さんが声をかけた。
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