ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「僕はそんな彼女が愛おしくてたまりません」

 心臓がどくんと震えた。

 彼女って、誰のこと?

 颯馬さんの口から真実を聞きたくない。今すぐ逃げ出したいのに、足が鉛のように重くなって動かなかった。

「僕が行った手段は褒められたものじゃありません。それでも、小春さんのそばにいたかった。この気持ちに嘘はありません。お父様、彼女を必ず幸せにします。僕たちの結婚をお許しいただけますか?」

 ――えっ?

 一瞬、思考と呼吸が同時に止まった。

 今……小春って言った?

 私は自分の耳を疑った。今しがた聞いたばかりの言葉が信じられない。

「彼女に選んでもらえるように、頑張ります」

 それでも、心から慈しむように優しく言う颯馬さんに、胸が熱くなり、涙が目に溢れ出る。堪えようと唇を強く結ぶけれど、最初の涙がこぼれてしまうと、あとはもう止めどなかった。
< 147 / 175 >

この作品をシェア

pagetop