ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
 それに、颯馬さんにはずっと想っていた人もいる。本当は誰よりその人と一緒にいたいはずだ。私よりも、他の誰よりも……。

 堪らずにうつむいた。すると、店の中からわずかに物音が聞こえた気がして、私は眼差しを送る。

「お父さん?」

 そんなわけはない。父は病院にいるはずだ。まさか、泥棒?

 背筋に恐ろしい戦慄が走った。しかし、耳に届いてきたのは男性の話し声だった。

 この声……。

 耳馴染みのあるそれに、私は吸い寄せられるように聞き入る。

 間違いない。颯馬さんだ。それに、お父さんの声もする。どうしてふたりがここに?
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