ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「お父さん、どうして教えてくれなかったの?」

 ひとりでどうにかなるわけないじゃない。色々心配して、無理したから……。倒れる前に話してくれれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

 それでも、隠していたのはきっと、私を思ってのこと。優しい父に、こんな厳しい事実が伝えられるはずない。考えればすぐにわかった。

 気づけなかった情けなさや、理不尽な事態への悔しさ、その他にも様々な感情が入り乱れていて、私は奥歯を強く噛み締める。

 到底今すぐに用意できる額ではない。一千万円なんて手にしたこともない大金だ。貯金は、たしか百万円くらいはあったはず。でも、今月の利息に入院費や治療費、お店の経費も考えると、一ヶ月分にしかならない。来月には……。

 戦慄が身体を突き抜ける。

 こんなときなのに、職も失ってしまった。祖父母もすでに他界しているし、他に頼れる親戚だっていない……。どうしよう。

「お父さん……」

 眠る父の傍らにしゃがみ込む。頬にそっと触れると、朝日に輝いたそれはポカポカと温かかった。

 煩悶(はんもん)していた私は深呼吸をして、心を決める。

 今度は、私がお父さんを守らないと。

「私、頑張るから」

 もちろん返事はない。しかし、私は、眉の辺りに決意の色を浮かべて病室を出た。
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