ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
「よしっ。行こう」

 不安を吹き飛ばすように声を出す。

 悩んでいても仕方ない。

 パジャマを脱いで、白のシャツとその上にアイボリーのニットワンピース。さらにはベージュのコートを羽織った。そして、できるだけ物音を立てずに恐る恐る部屋から出た私は、リビングに颯馬さんの姿がないのを確認すると、【すぐに戻ります】と書いたメモを一応テーブルの上に置いてマンションの部屋を出る。

 近くを散歩しながらスーパーを探そうか。そう思いエントランスホールを歩いていると、突然「おはようございます」と声を掛けられて、私は思わず「わっ」と短い声を上げてしまった。

 コンシェルジュの人がいるの忘れてた……。

 バクバクと早鐘を打つ心臓を必死で落ち着かせつつも、私も「おはようございます」と会釈をした。

 あ、この人に聞いてみようかな。

「すみません。この近くにスーパーってありますか?」

 カウンターに近づき、問い掛ける。すると、髪を綺麗にまとめた女性は、

「スーパーでしたら、このマンションの地下一階にございます」

 上品な笑顔を浮かべながら答えてくれた。

 この中にあるの?

 驚きのあまり、私は目を見張る。

「あ、ありがとうございました……」

 そう告げると、女性は深々と丁寧に腰を折った。
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