ニセモノ夫婦～契約結婚ですが旦那様から甘く求められています～

「……ありがとう、小春。すまないな」

「なによ、後片付けくらいで大袈裟なんだから」

「いや、すまない……」

　そう告げた父は、悲しげに目を伏せる。

　やっぱり、なんか変だ。今日がお母さんの命日だから？　それにしても、例年に比べてもずっと元気がない気がする。

　母は、私が五歳の頃に病気で亡くなった。生まれつき身体が弱かったらしく、私を身ごもったときには医師からも、『出産は難しい。子供はあきらめた方が良い』と言われたそうだ。だが、母は誰の説得も聞かず、私を生んだ。そして、一気に悪化した体調が回復することはなかった。

　私がわずかに覚えている母は綺麗で、にっこりと優しく笑う人だった。父とふたり暮らしになって、早いもので二十一年――。

　ここでうどん屋を経営する父は穏やかと言えば聞こえはいいがとにかくお人好しで、その性格ゆえに損をしてしまうことも多く、経営にはあまり向いていなかった。

　お腹を好かせているがお金はないという人に、ただでうどんをご馳走したことも一度や二度ではないし、そもそもメニューの価格だって、原価に少し色をつけているだけのようなものだった。