赤髪の彼に

ー 春

ひらひらと桜が舞い、見上げれば視界は一面ピンクに染まる。
そしてその奥には果てしない青い空と、ふわふわと軽やかに浮かぶ柔らかな白い雲。


会社、学校、買い物…いろいろな目的をもって道をゆく人々も心なしか表情が明るく足取りは軽い。



あっ…

足早に通りすぎる女子高生のポケットから、ひらひらとなにかが落ちた。
淡い桜色のハンカチ。

雑踏の中に取り残されたそれをわたしは凝視する。

誰も気づかない。誰も気にとめない。誰も見向きもしない。

まるでこの世に存在しないかのように。

しかし。
それは地に這いつくばってじっと息をひそめる。
健気に。
誰かに見つけてもらうのを、その時を、じっと待ってる。


それがまるでわたしのようで、わたしそれから少し目をそらしたくなった。


わたしはいよいよそれをそのまま見ておくのが辛かったので重い腰を上げた。




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