蛍火

「とりあえずあいつんとこ行くかっ」

そうめんを食べるなら、ほっとけば何も食べないあの子供のところへ行ってやろう。そして、一緒に昼食をとるのだ。気にかけてやらなければ、あの子は本当に何もしないのだから困ったものだ。まったく世話のやけることで。

そんなことを考えながらも、彼の顔はどこか楽しげだ。余計なお世話、と言いつつも結局ほだされる彼女の姿が目に浮かぶよう。

はっ、と破顔した青年のペダルを踏む力が一層増して、またぼちゃりと小石が田んぼへ落ちたのだが、それよりも青年の頭の中はあの子のことでいっぱいで、耳にその音は入らなかった。




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