今でもおまえが怖いんだ
利久さんは靴に凝る人だった。

スニーカーを特に集めていて、出掛ける度にニューバランスの三ケタの数字は違うものになっていた。

靴を買った時の箱も捨てることなく、履かない靴は詰め物をして箱の中に入れて、除湿剤を入れた靴箱の中に並べていた。
靴箱の中には替えの紐も防水スプレーも消しゴムも入っていて、1日の内で彼が一番よくいる場所は玄関だった。

対して、私が1日のうちで一番長くいる場所は台所だった。
多分、そういうところだったのだと思う。

耐えきれなくなっていたのは私だけじゃないはずだ。
彼の方がずっと、大人な分我慢していたのだろう。


「これは全部処分しろって言われた?」
未だに並べられている靴たちを指さして宗徳さんは顔を輝かしている。

要ります? と一応聞いてみると「嫌だよ」と笑われた。

あとのものは適当にと言われた。
でも限定品のものは早い段階ですべて持ち出されていたし、ここに残されたものの大半は私にとって見覚えのない靴ばかりだ。
どの思い出の中にも登場しないくらい覚えのないもの。

「でもシュプリームのサンダル置いて行くなんて、俺なら絶対にできないね」

宗徳さんはにやにやと笑いながらまたダイニングへと戻って行った。私も一緒に中へ入った。
< 28 / 78 >

この作品をシェア

pagetop