今でもおまえが怖いんだ
車を駐車場に停めても、私たちはシートベルトも外さないままでぼんやりとしていた。

岐阜と愛知の間にある星空がよく見えるサービスエリアは恋人たちの聖地だった時代も確かにあったそうだけれど、その日はかなり離れたところに異国の家族が車を停めて大音量でテレビを楽しんでいるだけだった。
テレビから流れるEDMが場違いに響いていて、余計に静けさを感じられた。

「先輩が死んでしまって悲しいって、何で素直にそう受け取ることができなかったんだろうとか、そもそも自分はちゃんと悲しめているのかとか、そう考えた途端に会社の人たちと顔を合せることが嫌になってしまって、本当は大した怪我なんてしていなかったのに、なかなか職場に行きたくなくて」

それで……と続けようとした言葉を標門さんは切った。

ヴァージニアを軽く咥えて、またオイルの少なくなったジッポをカチカチと弾く。

また安物のライターを手渡すと、今度は受け取って自分で着火した。少しだけ開いた窓から細い煙がゆっくりと外に出て行く。
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