今でもおまえが怖いんだ
「退職した先輩がね、寿退職だったから結構若い人でぼくより少し年上くらいなのだけれど。その方が亡くなられて、お焼香に会社の人たちと行ってきたんだ。その日の帰りに、ちょっとショックでぼんやりしてしまっていたから、ちょっとした不注意なんだけれどね」

音楽がBye Byeに変わった。
やっぱりこの曲は女性シンガーじゃなくて志村さんが歌うから良いんだよねと標門さんが少しボリュームを上げた。

「普段から死にたい死にたいと思っていることはきっと誰かには悟られているんだろうし、その誰かはきっと葬儀の場で俺のことを心底から疎ましく思っているんだろうと思ったら途端に居心地が悪くなってしまって。普段自分が死にたがっていることがとても不謹慎なように思えてならなくなったんですよね」

手首を切ったりしているくせに薬を飲んだりしているくせに、死にたいとか言っているくせに死なないなんてと。
そう責められているように感じたらしい。

「おまえが死ねよって、誰かは絶対に俺に対して思っているって、その時はそう感じたんだよね。今にして思えばとんだ被害妄想なんだけれども。多分、俺もその先輩にはかなりお世話になっていたからメンタルに来ていたっていうのもあって、余計にね」
< 48 / 78 >

この作品をシェア

pagetop