今でもおまえが怖いんだ
以前はうつ伏せで有馬君に重なり合うように浴槽に沈んでいた私も、気付いたら彼に背中を預けるようになっていた。

顔が見えないまま続く会話はそこまで苦にならないでいる。

後ろから頬をつままれたり胸を揉まれたり、そうする度に「なあに」と笑ってしまう。

「今日さー、この後、いつも通り牛丼食って解散で大丈夫?」

後ろから胸を揉まれながら言われ、私も「うんー」と彼の口調を真似て返す。

お風呂からあがるとドライヤーで髪を乾かして、服を着て、忘れものがないか部屋の中を確認した。そうしてフロントに電話をかけて退室した。

ホテルから出ると、冷気が肌に刺さった。

寒い寒いと言いながら牛丼屋に逃げ込んで、量多いよなあといつもと同じようなことを言いながら並盛を食べて、そうして適当な道で解散する。

「じゃあ、また連絡する」

朝帰りだなんて悟られないくらい涼しげな表情で人の波に入って行く彼を私は見送った。

そして自分もコートのポケットに入れて置いた白いマスクで顔を隠して、駅への道をゆっくりと歩いた。

「またね」なんて言う自分の声が少し上ずっていたような気がした。

なんかもう、ない気がする。
そう思ってしまった。

多分ない、きっとない。
彼の方からの連絡はあるだろうけれど、それでももうこれ以上は進まない気がした。

半年以上続いた関係の行き止まりを見付けてしまったような気がした。

終わりにしよう、そう思った途端に彼のガサついた肌が恋しくなった。
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