いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
彩香は笑い転げたが、途中で気がついた。俊介が無理して笑い話を作ってくれていることに。また、俊介がそんな機転を効かせられることに、今更ながら気がついた。
 これは誰でもそうなのだろうか。きっとそうなんだ。会社勤めをしていたら、気まずい場面とか数え切れないくらいあって、その度に人々はこうして乗り切るんだ。いや、会社勤めだけでない。どんなビジネスだってそうなんだ。

 彩香は心の中で、何かがすっと降りていくのを感じた。
 顔がこわばり、気がつくと目頭が熱くなってきた。彩香は手で目をこすると立ち上がり、洗面所に走った。俊介があとを追って来ないことがありがたかった。
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