いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
「やってみたらいい」
 俊介がそう言うと、彩香はホッとした。
 専業主婦として当分やっていくことは暗黙の了解だったが、その「決まり」からはみ出ることに不安があった。もしかしたら俊介は嫌がるかもしれない、とも感じていた。今までこんな機会がなかったので、俊介の反応が予想ができなかったのだ。
「で、イラストを描くのはいいとして、仕上げにはパソコンで何かしないといけないんだろ」
「ええ、そのことなんだけど」
 彩香はすでに、デザイナーが使う定番とも言えるソフトウェアを調べていた。以前は買取方式で高価なものだったが、今は月極めで支払えるシステムになっている。必要な時だけ支払い、用が済めば解約すればいい。一ヶ月分の支払額は、スーパーの一回の買い出し額にも満たない金額なのだ。
「そう言えば、俺の知り合いに工業デザインをする人がいて、似たようなソフトを使っている。廉価版とか学生用とか、色々安く使える手はあるらしい」
「ちょっと習わないといけないかもしれないので、知り合いに当たってみるわ」
「うまくいくといいね」俊介は笑顔になった。「随分と割のいいパート仕事を見つけたね」
「まだわかんないよ」彩香も笑った。
「そうだ、15万入ったら、俺にもたまには奢ってよ。場所はお任せにするから」
 俊介は笑顔でテレビのリモコンをつかんだ。
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