リングサイドブルー
「そんなこと思ってないよ」

 優月の顔が歪んで、畳み掛けるように言葉を継ごうとしていた自分自身にはっとする。これではいつもと何も変わらない。

優月が何を考えて、どんな情熱を持って自分に仕事を教えようとしてくれているのか、知りたいと思うのなら、まずはきちんと向き合わなくはならない。愛娘の前向きな一歩を思い出し、千晃は言葉を飲み込んだ。

 ややあって、優月が口を開く。

「それ、実は俺が一年目のときに神長からもらった本なんだ。俺、高校から独学でプログラミングやってたんだ。

エラー出たら感覚で書き直したりして、いつもどうにかなってたし、それもある種の自信だったけど……、仕事じゃ全然通用しなかった。ただ書いていただけの一行一行が、全部大事なんだって今はすごく分かる。

この本、どうしてそうやって書かなきゃいけないのかとか理由も書いてあるし、わかりやすいよ。俺から渡されると受け取りたくないかもしれないけど、神長が選んだやつだから間違いないよ。返さなくていい、ちゃっきーに譲る」
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