さざなみの声


 すると「お待たせしました」と天重が運ばれて来た。「ごゆっくりどうぞ」

「おっ美味そう。ここの天ぷらは本当に美味いよ。ほら食べて。いただきます」

「うん。いただきます」

 天重は美味しかったけど。本当に美味しかったけど……。

 二時間待たされたくらいで、あんなに怒ってた自分が、どうしようもなく器の小さい人間なんだと恥ずかしくなった。シュウは私のために、わざとそのまま悪者になっていてくれた。

 三年間も、ずっと好きだった初めて本気で付き合ったシュウは、やっぱり素敵な男だったんだと今頃になってやっと分かった。

「あぁ美味かった」 

「うん。本当に美味しかった」

「さぁ帰るか」

「割り勘にして」
 って言ったら

「僕が誘ったんだからいいよ」

「じゃあ、ごちそうさま」

 外に出て「送るよ」ってシュウ。

「いい。一人で帰れるから」

「何言ってるんだよ。ついでだよ。はい乗って」

 また無理やり乗せられた。車が走り出して

「寧々、僕たちもう友達には戻れないかな?」

「あんなに綺麗な彼女が居るのに、今更私たちが友達に戻る必要ないでしょう?」

「彼女会社では、みんなの憧れのマドンナなんだ。前にもいろんな奴と付き合ってたみたいだけど」

「憧れのマドンナを射止めたってこと?」

「でも、きょう二人で会って何か違う気がした。よく分からないんだけど」

「同じ女として一言、言わせてもらえば……。初デートで五万もする洋服を買ってもらって平気な神経って男を初めからバカにしてるって気がしたのは事実よ。いくら、お嬢様でもって言うか、お嬢様だからこそ相手の気持ちや財布の心配してあげるのが気遣いだと思うけど」

「そうだよな。そういえば初デートの時、お揃いの携帯ストラップ買ったよな」

「そうだったかしら……」
 覚えてるよ。今でも大切に机の引き出しにしまってある。

「この辺か?」

「うん。もうここでいいから」

「夜は物騒なんだから、ちゃんと送るよ」

「じゃあ、そこの角で止めて」

「分かった」
 車が止まった。
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