さざなみの声


「疲れてないか?」
 寧々の顔色が気になっていた。

「ううん。でもちょっと疲れたかな。やっぱり緊張するから」

「そうだな」

 僕の部屋に寧々が居るのは久々なんだな。

「みゆき綺麗だった。それに幸せそうだった」

「うん。寧々……。何か悩みでもあるのか?」

「どうして?」

「披露宴の時も幸せそうにしてたけど時々すごく寂しそうにしてたのが気になった」
 だからここに連れて来た。喫茶店では言えないだろうから。

「そんなこと……」

「ないのか? 彼と何かあったのかなと思ったから」

「何もないよ。それにシュウが心配する事じゃないから」

 心配するよ。寧々のことは彼の次に良く知ってる。いや僕が一番寧々のことなら知っているはずだから……。

 みゆきの結婚式。麗子も六月には結婚するらしい。もしかしたら……。寧々には彼との将来が見えないのか? どうしてなんだろう?

「ごちそうさま。ありがとう。そろそろ帰るね」

「あぁ、送って行くよ」

「ダメよ。酒気帯び運転で捕まるよ」

「もう抜けたよ。乾杯のシャンパンしか飲んでない」

 寧々の寂しげな顔が気になって酒を飲む気分じゃなかった。

 車のカギを持って二人で部屋を出る。駐車場まで無言。エンジンをかけて走り出す。寧々のアパートまで何も話さなかった。

「ありがとう」

「いつでも相談に乗るから。寧々がどう思っていようと僕は寧々の友達のつもりだから」

 僕を見て寧々は、ちょっとだけ笑った。無理して作った笑顔。何故だかそう思った。


 車を出して左に曲がって、また赤信号で止まった。

 ドレス姿の寧々がアパートの部屋に入って行くのが見えた。寂しそうな寧々の顔が浮かんだ。恋してる女の顔じゃない。何故だろう。理由が分からない。

 二年半前、寧々はもっと辛かったんだろうか? 僕のせいで泣いたんだろうか? あの時、何があっても寧々を手放すべきじゃなかった。彼女を一番苦しめたのは他の誰でもない僕なんだ。何年経っても、この事実は消えない。消せやしない。
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