さざなみの声
出会いと再会


 彼、津島 啓祐(つしま けいすけ)と出会ったのは私がまだ服飾科の学生で就活をしていた頃。大手アパレル会社に面接に行った時、彼は本社の人事課長をしていた。三十二歳の若さで。
 後に彼の奥さまの父親が、かなりの力を持ったこの会社の専務だということが判明したけれど……。

 デザイナーとして初めから採用されるなんて至難の技。だからせめてチャンスが巡ってくる可能性のある会社に何が何でも就職したかった。結果は不採用。

 その後も数社面接してもらう事は出来たが何処からも採用通知は来なかった。結局、私は生活の為に彼の会社の店舗にアルバイトとして入った。

 名古屋の実家からは事務の仕事ならこっちにもあるから帰って就職するように言われたけれど、まだ諦めたくなかった。

 一年が経って販売促進課長として店舗に来た時、何故だか彼の顔を覚えていた。

 店長に
「寧々ちゃん、このスカートの在庫のサイズ見て来てくれる?」

「はい。分かりました」
 と奥に入った。

 すると津島課長は
「あの子、寧々って名前なのか?」

「はい。あぁそういえば一年前に本社の面接を受けて落ちたって言ってました」

「僕が人事課長だった時だ。覚えてるよ。デザイン画も持って来ていて僕はセンスがあると推薦したんだが……」

「お偉方が認めてくださらなかった」

「まぁそういう事だ。寧々って名前も、あまりない名前だったし」

「津島課長、もしかしてタイプだったんですか?」

「あぁ、そうかもしれないな」
 そう言って笑った。

 その夜、私は大学時代の友人と店の近くの居酒屋で久しぶりに飲む約束をしていた。先に着いて彼女を待ちながら注文して一人で飲み初めていた。この居酒屋は女性一人でも気軽に入って飲める安心出来る隠れ処的存在だった。しばらく一人で飲んでいるとみゆきから携帯にメール。

『ごめん。行けなくなった。今度、埋め合わせするから。またメールする。本当に、ごめん。』

 まったく……。またあの彼だな。親友と彼とどっちを取るの? まぁ仕方ないか。女の友情なんてそんなもんか。二人分注文しなくて良かった。食べきれない。これを飲んだら帰ろう。
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