さざなみの声
悪女


 朝、窓から射し込む明る過ぎる日差しに目も開けられなくて……。昨夜確かにそこに居たはずのシーツの上に手を伸ばしてみる。啓祐の温もりも、もう残ってはいない。あれから何度も抱かれて日付の替わる頃に帰って行った。

 私は、いつも一人で取り残される。このベッドに……。

 彼は彼の家庭で目覚める。お嬢さんが起こしに来るんだろうか?
「パパ、起きて」なんて可愛い声で。

 奥さまの作る朝食を美味しそうに食べて、曲がったネクタイなんか直されて。想像するだけで余計に辛くなるのに。

 啓祐が離さないと言ってくれた言葉すら虚しく聞こえる。

 やっぱり間違っているんだと明るい日差しに教えられる。夜という名のカーテンに閉じ込められた空間だからこそ成立する恋愛なのかもしれないとふと思った。

 一人でシャワーを浴びて昨夜啓祐に愛された痕跡を消そうと試みる。啓祐を愛してる気持ちも体の中から引き剥がして洗い流してしまえたらどんなにいいだろう。苦しい。苦しくて息が出来ない。シャワーのお湯を顔にかけて涙を洗い流す。

 いつもこの時間は自己嫌悪に苛まれて、この世界から消えてしまいたくなる。どうして不倫なんてしているんだろう? 自分が、どんなに悪い女なのか思い知らされる。それでも啓祐からは離れられそうもない私がいる。

 いつか……。酷い目にアワサレルカモシレナイ……。そうなればいい。冷酷に自分を蔑んでいる私が、どこかに居る。
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