さざなみの声


「寧々、可愛いくて愛しくて堪らない……」

 僕の腕の中で、まどろむ君は天使なのかと思えるほど。

 こんな感情は生まれて初めてかもしれない。誰にも渡せない。触れさせない。僕のもの。 君のためなら、すべてを失っても惜しくない。寧々の魅力に溺れている。何度でも抱きたい。寧々を抱いたままで死ねるのなら本望だと思う。そこまで愛したのは寧々ただ一人。離したくない。帰したくない。僕だけの寧々……。

     *

「クリスマスプレゼント何がいい?」

 私の肩を包んでくれている啓祐の大きな温かい手。

「ううん。何も要らない」
 目に見える形のあるものは何も要らない。

「去年も何も要らないってプレゼントさせてくれなかったよ。欲しいものはないのか? どんな物でも構わないよ」

「どんなものでも?」

 啓祐の顔を見た。何て優しい目をしているんだろうと思う。

「じゃあ、もっと暖かくなってからでいいから、どこかへ連れて行って欲しい」

「どこが良いんだ?」

「う~ん。海かな。いい?」

「海か。いいよ。きっと行こうな」

「うん。約束ね」

 嬉しかった。私と一緒に外を歩いてくれるの? 何処で誰と偶然出会うのかも分からないのに?

「啓祐、大好き」
 広い背中に腕を回す。

「子供みたいだよ。そんな言い方」
 髪を撫でられる。

「じゃあ、愛してる」
 啓祐の顔を覗き込む。

「僕もだ。愛してるよ寧々」

 肩を抱いてくれた手が私を引き寄せる。もう片方の腕がウエストに絡み付く。しっかり抱きしめられて動けない。

「啓祐、苦しい」

「離さないから、ずっと……」

「えっ? ……啓祐?」

「寧々とは別れられない。誰にも渡したくない」

 涙が零れた。その気持ちだけで十分嬉しかった。どこまで一緒に居られるのかも分からなかったけれど。啓祐は頬の涙にキスしてくれて、そして唇が塞がれた。彼の想いが、すべて込められているような深いキスを受けて私は泣きながら啓祐を抱きしめていた。啓祐の素肌が熱くて、その熱で溶けてしまいそうで彼の腕に包まれたままの私は幸せ過ぎて何故だか怖かった。
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