さざなみの声

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 そして、お式が始まった。仏前でも神前でも教会でもなく、麗子たちは人前結婚式を選んだ。招待客の前で婚姻届にサインをして全ての招待客に証人になってもらう。仲人も立てない。名ばかりの仲人なんて意味がないからと。そして二人で誓いの言葉を読み上げる。招待客の心からの祝福の拍手で二人は夫婦となった。

 シャンパンで乾杯して楽しいスピーチや歌のプレゼントなど、披露宴は笑顔のあふれる和やかな雰囲気の中で進められた。みゆきと私も学生時代よく三人で歌った歌をプレゼントした。

「寧々さんのドレス、どこのブランドの物かしらね?」

「国内の物ではないんじゃないか? 見かけないデザインだね」

「海外の物にしては縫製がきちんとしていたのよね」

 このお二人、フォーマルウェア国内シェアトップクラスのブランドの、ご主人は社長、奥さまは副社長兼デザイナーのご夫妻だった。



 披露宴も無事お開きとなって私はロビーで、まるでずっと以前からの知り合いのように、あのご夫妻と話をしていた。

「ところで寧々さん、そのドレス、どこで買い求められたのかしら?」

「これは私が自分で作りました。お恥ずかしいんですけど」

「デザインも型紙もご自分で起こして生地も選んで、あなたが縫ったの?」

「はい。そうですけど」

「実は私たちは、こういう会社を経営しております」
 ご主人から名刺を渡された。

「えっ、あのフォーマルで一流のブランドの?」とても驚いた。

「寧々さん、今どこかでデザイナーとして仕事をしているのかしら?」

「いいえ。ショップの店員のアルバイトをしています」

「まぁ何て勿体無い。家の会社でデザインをしてくれる気持ちはないかしら?」

「私がですか?」

「秋に寿退社するデザイナーがいてね。探してたのよ。新しい感覚のデザイナーを」

「ぜひ家へ来て貰えないだろうか?」と社長。

「麗子さんのお友達なら、もう大歓迎よ。とにかく一度会社に来てみて欲しいわ」



 私は七月いっぱいで店を辞めた。店長は

「寧々ちゃん、夢が叶ったのね。ここに寧々ちゃんのデザインしたものが並ばないのは残念だけど。応援してるから。素晴らしいフォーマルウェアを作ってね」

「ありがとうございます。店長いろいろお世話になりました」

 実家にも電話を入れた。母は
「そろそろ帰って来て、お見合いして貰おうと思ってたのに。また縁遠くなったのね」  
 と言いながらも喜んでくれていた。
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