さざなみの声
シュウと寧々


 次の土曜日、寧々はシュウのマンションに居た。

「きょうは仕事で忙しかったんじゃないの?」とシュウ。

「きょうまで掛かる予定だったのが出来上がったから。せっかく料理してあげようと思って材料も買って来たのに作ってあげないよ。いいの?」

「良くない。何を作ってくれるの?」

「シチューよ。ところで基本的な事を聞くけど、炊飯器ある?」

「ない」

「やっぱり。そんな気がしたからパンを買って来たの。正解だったわね。危ない危ない。でも炊飯器一つない部屋ってどうなのよ。毎日外食なの?」

「とか……。コンビニとかで済ませてるかな」

「私もバイトしてた頃はそうだったわ。忘れてた。ねぇ食器はあるの? 二人分」

「う~ん。シチューだろう? これ?」

「カレー皿あるんじゃない。一枚だけ?」

「と、これ?」

 シュウが出したのはラーメン丼。

「うっそ~」

 小さなまな板とナイフはあった。とりあえず材料は切れる。お鍋はラーメンくらいしか作れそうもないサイズ。二人分くらいなら、なんとか作れるかな。お玉。なぜかこれはあった。不思議……。笑ったのはスプーン。お持ち帰りのカレーとかに付いてるプラスティックのがゴロゴロ出てきた。もう可笑しくて一人で笑っていたら止まらなくなってしまった。

「寧々は、やっぱり笑ってる顔が一番可愛いよ」

「可愛いって私もう十九歳じゃないのよ」

「可愛いおばあちゃんになるって言ってなかった?」

「言ったけど」

「じゃあ僕も可愛いおじいちゃんになるから、これからもずっと二人で一緒に居よう」

「えっ? でも私、仕事は辞められないわよ。私を迎えてくれた社長ご夫妻の期待は裏切れない」

「そんなこと分かってるよ。共稼ぎ夫婦で構わないよ。家事だって分担すればいいし出来る方がすればいいだろ」

「でもシュウは料理は無理よね」

「教えてくれたら覚えるよ。その気はあるから」

「じゃあ、じゃがいもの皮むきからね」

「えっ? 今から?」

「そう今から。はい頑張って」
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