箱入り娘に、SPを。
誰かが作り上げたイメージでしかないが、クラブというのは重低音が鳴り響き、ステージ上でDJ的な人がノリノリで若者を盛り上げている……それくらいの知識しかなかった。
行ったら必ず音楽に乗せて踊らなきゃいけないのかとビクビクしていた私は拍子抜けした。
普通にバーカウンターのようなものがあり、そこでお酒を飲むだけで構わないからだ。
そうか、それであの男の人たちは私たちを誘ってきたのか……と合点がいった頃には、もう二杯目が目の前に届いていた。
「ね?なんてことないでしょ、クラブなんて言ったってさ」
「梨花ちゃんと美羽ちゃんは?普段なにしてんの?」
クラブへ行こうと誘ってきた二人組は、私たちの両脇を固めるように座っており、さっきから何かと話しかけてくる。
勝手な想像で、彼らはクラブの関係者か何かでお店に誘ってきたのかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
単に飲み相手がほしかったようだ。
普段はOLですー、と楽しげに話す梨花とは対照的に、私はあまり気乗りしていなかった。
軽薄そうな男たちに、ちょっと引き気味だったのだ。
「仕事とかでミスしちゃうとおじさんたちに怒られない?毎日疲れるでしょ、きっと」
「そーなんですよ!上司には気を遣うし、お局様にも気を遣うし、楽じゃないですよOLって!」
梨花はわりとちゃんと受け答えをしていて、たまにうまくそらしたりもする。
こういうのに慣れているらしい。
そちらは盛り上がっているなあと横目で眺めていたら、トントンと隣の男に肩を叩かれた。
「美羽ちゃんは、ストレス感じることない?」
「ストレス……ですか」
仕事ではあまりない、が、家ではある。
「まあ、色々あります」
答えを濁すと、少しタバコくさい息を私の耳に吹きかけるように彼が耳元に顔を寄せてきた。
「ちょっと、さ。二人きりにならない?」
「………………え?」
さっき会ったばかりなのに?
それはいくらなんでも危険でしょ。
「それは……」
断ろうと身を引くも、彼は譲らずにがっちり私の手を掴んだ。
「そういうストレスとか嫌なこと、忘れられるもの持ってるんだよ、俺。試してみない?」
ゾクッとした。嫌な予感が頭をよぎる。