箱入り娘に、SPを。
そうして仕事で疲れた心を癒すべく私たちが立ち寄ったのは、何度か行ったことのあるダイニングバー。
ちょっとしたおつまみを食べながら何杯か飲み交わし、いい気分になっていた。
そこに現れたのが、例の二人組の男たちだったのだ。
「お姉さんたち、このあと二軒目決まってる?」
「よかったら、俺たちの行きつけのクラブにでも行ってみない?」
クラブ、だと?
「そんな怪しいところ行くもんじゃない!」という父親の顔がまたしても浮かび、ぶんぶんと首を振る。
どっかに行け!頑固オヤジ!
「私、クラブは行ったことないからちょっと……」
正直に申告して気が引けていることを話すと、珍しいものでも見るように二人の男の目の色が変わった。
「……え!行ったことないの!?じゃあぜひ一緒に行こうよ!怖いところじゃないからさ!」
「そっちのお姉さんも、ね!どう?」
二人ともそこそこのイケメンだったので、たぶん梨花としては最初からアリだったのだろう。
少しもじもじと渋る振りをして「どうしようかなあ」なんて悩んでいる。
長年の付き合いで私には分かった。
……行く気満々ですやん。
「美羽(みう)、……行く?」
チラリと梨花に視線を送られて、私はあからさまに嫌な顔を向けた。
それなのに、無言の抵抗はあっさり親友に無視された。
「じゃー私たち、行きまーす!」
「ちょっと、梨花…」
彼女は昔からこんな感じだ。強引に人を連れ回す。
それでもこんなに仲良くしているのは、たぶん一種の憧れを抱いているからなのだ。
好きなように好きなことをして楽しみ、思いつきで行動して周りをさらりと巻き込む。
そんな生き方を、私はしてこなかったから。
梨花は根っから明るくて、根っから周りに人が集まり、根っから美人。
これは生まれ持った彼女の素敵なところでもある。
だが今はちょっと要注意のような気もするが。
「よっしゃ、決まりね。じゃあ行こうぜ」
こうして名前も知らない男二人に連れられて、私は人生初のクラブという場所に足を踏み入れたのだった。