箱入り娘に、SPを。
たぶん、今しか勇気は出ないと思った。
だから、どんな返事が来てもいいと覚悟をもって言った。
梨花の言う、直球勝負。

「小太郎さんのこと、もっとよく知りたいです」

完全に彼女の受け売りを彼にぶつけてみたものの、またサラッと流されるのかと思いきや。
そうではなかった。

「そう?どうして?」

…そう来たか!
ぶわっと自分の顔が赤くなるのが分かり、やはり彼の方が何倍も、いや何十倍も何百倍もうわ手だと確信した。
あの梨花よりも、だ。

「だって、それはその…、本当の自分を……隠してるように見えるから」

しどろもどろに答えるが、彼は非常に余裕のある顔で面白げに私の赤い顔を見下ろしている。
─────言わなきゃよかった。
こっちのひと握りの勇気なんて、彼には響かなそう。

「僕の身になにか起こって死んだりしても、まあ悲しむのは叔父さんとかツネさんくらいかなぁなんて思ってたけど」

何気なく放った彼の言葉に、唐突に心を揺さぶられた。激しく動揺している私には気づいていないのか、彼は続ける。

「美羽さんもちょっとは悲しんでくれるかな」

「やだ」

感情のコントロールは、まだまだ幼稚な私にはできない。
即座に口をついた言葉は子供じみていた。

あっ、と慌てたように小太郎さんが私の肩を抱く。

「ごめん!ごめんごめん!泣かせるつもりは!」


言われて知る、自分の頬を伝う涙。
公衆の面前でなんてみっともない。


慌てたように小太郎さんに肩を抱かれて、そのまま空いていたベンチに座らされた。
肩に添えられた手が、少し強くなった。

「……ごめんね。本当にごめん」

「死んだら一生許さない。呪うから」

「縁起でもないこと、ごめん」

「やだよ、死んじゃったら、絶対に嫌なんだから」

厄介な小娘だ、という自覚はある。
でもこうなってくると涙というものはそう簡単には引っ込まない。
どこからともなく、小太郎さんがハンカチを出してくれた。

シンプルなネイビーのハンカチ。
それで拭っても、涙は止まらなかった。

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