虚愛コレクション
先まで笑っていた表情を消して、私から目を反らし、ゆっくり歩きはじめる。
「じゃー聞くけどさ、祈ちゃんにとっての邪魔って何なの?」
「え?」
「あの人とどうなりたいの?」
「どう……って」
そう問われて言い淀んでしまう。
私にとって彼は拠り所で、苦しさを吐き出せる唯一の存在。
しかし、神楽君が問いかけているのはそんな事ではない。今の話ではなくて先の話なのだ。
私が答えられないのは未来のビジョンがないから。
「……」
「祈ちゃんにとってあの人じゃなきゃダメな理由が見当たらないんだけど、納得できるまで教えてよ」
「……それ、は。……そんなのは、理屈じゃない……から」
「理屈じゃないからあの人じゃなきゃダメだって?それなら僕に何か言われたからって気にせずにあの人の所に行ったらよかったじゃん」
ピタリ、と歩みを止めて私に振り返る。
気が付けば雑踏を抜けて細い路地に入り込んでいた。それすらも気づけないままに、一歩下がる。
神楽君は自分の言ったことを忘れたわけではない筈だ。それなのに、そう投げかけて私に言葉を紡がせる。
「神楽君が脅すからじゃない」
「――脅されて屈するならその気持ちは本物じゃないんじゃねぇの?」
スッと冷えた目で、尚笑うのは私を哀れんでいたからなのだろうか。