虚愛コレクション
陰った視界の端に映るのは黒いスラックス。徐々にそれへとピントを当て、上へ。上へ。
目の前に居るのはダサい制服を来た男子だ。つまり、うちの学校の生徒。
まだまだ視界を上昇させる。
手には此方に向けられた、何の変鉄もないビニール傘を持っている。その彼は濡れていて、じんわりじんわり、制服が黒く染まり続けている。
合った視線は彼のように色がない、冷たい目。
「え……」
呆気にとられて間抜けに一語出すと、彼は途端に顔を綻ばせた。
「傘どーぞ。女の子が体冷やしちゃだめだろ?」
ニコニコと笑いながら、私の手に傘を握らせた。
何だ、今のは見間違いか。いや、元々笑ってすらいたのかもしれない、と思えるほど屈託のない無邪気な笑みに、つられて曖昧な笑みを返していた。
「って、えっ、ちょっと!」
つられ過ぎて理解するが遅くなり、慌てて立ち上がって傘を返そうとした。なのに相手は既に私にひらりと手を振って受け付ける余地を与えてくれなかった。
「ハンカチとか、持ってなくて悪いね。お大事に」
何の事だと思ったが、雨か。いや、膝か。
どちらにしろ、その笑みに気を緩まされたのが事実。遠慮する事もままならなかった。
後ろ姿を見つめる。手に残ったのは傘。耳に残ったのは、鈴の音。