虚愛コレクション


既に濡れていたが、ありがたく傘を使わせてもらいながら、あれは誰かと考えるも答えは出ない。

確かなのは同じクラスではない事。同学年ならば、入学して間もない為に別クラスの人は分からない。先輩ともなるともっと分からない。

けれど、私的には同学年だと予想するのは、まだあどけなさが残った笑顔からだった。オマケに彼と比べると……

ああ、駄目だ。比べてどうする。

ブンブンと首を横に振る。水滴が左右に飛び交った。

頬に髪が張り付いたのを剥がして傘を閉じ、階段を上る。

湖のようになったローファーからはグジュグジュと気持ち悪い水音が鳴る。

一応電話しておいたから、許してはくれるだろう。やはり迷惑そうにされてしまったが。


「……迷惑、なのかなぁ」


少し、勝手に、気分が落ちた。

なのに足は止まる事なく階段を更に上がり、彼の部屋の前へ。何も語りはしない無機質なドアだ。この奥に彼は居る。

一回深呼吸をしてインターホンを押せば意外と早く応じてくれたが、若干据わった目からは歓迎している訳ではない事は一目瞭然だった。


「……ひどい濡れようだね」


歓迎しているわけではなさそうなのに玄関口に通してくれた。



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