いばらの棘が溶ける夜
はじまり
突然背後の方で、「バッターン」っと電車のガタゴトの音をかき消す大きな音が響き渡る。
開閉ドアの前あたりで男の人が、大の字で倒れていた。
本当に、大の字って言葉がぴったりで、ビックリしすぎて、私は一歩も動けないまま周りを見回すだけ。

誰も動いてなかった。というより、動けなかったのが正しいと思う。



みんなが沈黙し静止してる。

長く感じた時間はほんの10秒くらいで、何事もなかったようにゆっくり男性は起き上がり、手すりをつかんだ。

それを合図に周りも「大丈夫ですか?」「座ってください。」と声をかけ始める。

みんなの心配と、とりあえず平気そうでよかった!というような安堵な空気が流れる中、男性は「…今僕は倒れていましたか?」と隣の女性に尋ねていた。

全く倒れた時の記憶が無いようだった。

女性は頷き「座ったほうが良いですよ。」と周りの思いを代弁する声かけを再度してくれたが、男性は「大丈夫です。すぐ降りますから。」と答えて吊革を握り立っている。

私は何も言えなかったけど、心の中では心配でたまらなかった。

脳梗塞は、倒れた時は動かず、意識があっても救急がくるまで安静に、4時間以内が勝負となると読んだ事があったのを思い出していたから。

歩いたり、立ったりしちゃいけないって。

背後で起きたことで、私は直接倒れるところをみていなかった。
男性は、どうやって倒れたんだろう…
頭は打ってないのだろうか?
立ち上がってよかったんだろうか??
病院にはすぐに行くだろうか???

倒れた男性は、何事もなかったように2駅先の停車駅で降りていく。
もしかしたら歩かない方が良いかもしれないのに…。

それを見ながら、電車のドアが閉まりかけた所で、思わず私は飛び降りた。
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop