いばらの棘が溶ける夜
次の日の朝。

「まゆ、おはよっ!」

教室入るなり里香が声をかけてきた。
すでに、華音と夢乃も来ていて、手を振っている。

「まゆ~、昨日のだけど、その人急に倒れたの?」

里香が昨日の話をふってきた。

「そうなの。瞬間見てないんだけど、凄い音がしたから振り向いたら、仰向けになって倒れてたんだよ。」

「びっくりして動けなかったよ~」

私がそう言うと、夢乃が「話しかけたんでしょ?」って。

「降りた時に、追いかけてね…」と話し途中で、みんなが

「え~っ!!!」
「なにぃ~???」

って、クラス中に響き渡る声で驚いた。

「ちょっ、ちょっと!昨日のラインと違うじゃん!!」

「レベル違いすぎ!」

「隣に居て、声かけたのかと思ったよ!」

3人が順番にたたみかけてくる。

「追いかけるって、まゆと降りる駅が同じだったの?」

夢乃が質問すると、2人も深く頷く。

「1つ手前の駅だよ。」

「どうしても、病院に行った方が良いって伝えたくって、思い切って降りちゃったの。勇気がいったよ~追いかけてスーツの裾ひっぱってさ~」

「ぎゃー!!」

3人は、凄い声でまた騒ぎ始めた。

「聞いた??スーツの裾をひっぱっただって!!」

「ドラマみたい!もちろんキモ親父じゃあないのよね?」

「どんな人なの!?」
またもや、最後の夢乃の質問で静かになった2人は目をキラキラさせて頷いてる。

「たぶん、30歳くらいで、スーツを着てたよ。」

「急に声かけられた上、私ちゃんと伝える事もできなかったのに、ありがとうって優しく答えてくれたの。」

「あかんやつじゃん!」

里香が言う。

「何が、あかんの?」と私が尋ねると

「ゆっくり、じっくり、1から10まで報告必要なやつってこと!!」

女子の話は、長いのだ。

お昼休みと放課後を使って、昨日の出来事をそれこそ1から10まで報告した。

その上でまた、「どんな人?」って話しになる。

「うーん、スーツ着てるからか、大人でカッコよく見えたかも。顔は丸ちゃんよりな感じで、優しそうだったよ。」

丸ちゃんとは、うちの学校で二派に分かれる人気者で、理科の教師。
もう1人の人気者は、体育教師のゲロ。

花の女子高だけど、出逢いもないので必然的にまぁまぁ若めの男の先生が、色恋の話題になるというなんとも寂しい話だけど、現実って甘くない。

情報通の華音ちゃんよると、人気者の丸ちゃんは170㎝で28歳。ゲロは、178㎝の32歳らしい。2人とも独身。

イケメンか??というと、イケメンではない。
世間一般では、まぁまぁ?いいほう?普通?なのかな。

決して背も高くない丸ちゃんと、32歳のゲロが、学校生徒人気を二分するというんだから、そこら辺に歩いてるサラリーマンもカッコよく見えるというものだ。

倒れた男の人が、30歳くらいと言うのも正直よくわからない。
大人の男性と言ったら、先生くらいしか知らないし、丸ちゃんやゲロくらいかなって思っただけ。

丸ちゃんファンの華音ちゃんは、
「いいな~」って素直に羨ましがった。

いやいや、彼の名前すらも知らないのに…

そう、名前も知らないこの話はこれで終わり。

それでも、夢見る乙女達の話は終わらない。

「また偶然会ったらどうする?」
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