雨宿り〜大きな傘を君に〜
「簡単に受け入れたつもりはないよ。そう聞こえたなら…」
「菱川先生には好きな人…いますか?」
聞きたくないような聞きたいような。
それでも確かめないと。
「…好きな人は、いない」
真っ直ぐ私の目を見て伝えてくれた答えに、ひどく安心した。
けれど、
ーーハナちゃんに恋愛感情をもつことは、ない。
先生はそうも断言していた。
他に好きな人はいないけれど、私も愛すつもりはない。そういうことだろう。
「この間の電話の相手のことを気にしているのなら…」
「有明沙莉さんのことは、聞きたくありません」
「君が聞いてくれるのなら、全部話すよ」
「それはルール違反なので…先生の過去の女性関係については詮索しないと、緒方さんと約束しました」
「なんだよそれ…」
運ばれてきた珈琲を飲みながら、菱川先生は盛大なため息をついた。