雨宿り〜大きな傘を君に〜
コートを脱ぐ先生を横目に窓の外に視線を向ける。
大丈夫かな。
佐渡先生に見られてないかな。
「珈琲でいい?」
かけられた言葉に反応して、無意識に先生の唇を見てしまう。
少しひんやりとした唇の柔らかな感触を思い出すと身体が熱くなった。
「はい……」
賑やかな店内では誰も私たちの会話を気にかけていない。重い空気にならず、その雑踏が少し有難たい。
珈琲を2杯注文した菱川先生の視線を感じ、頭を下げる。
「本当にごめんなさい…」
「単刀直入に聞くけど、ハナちゃんは俺が好き?」
直球な問いに、頷く。
この想いは最近自覚したけれど、いつから塾講師から好きな人と見方が変わったのだろう。
「それなら、これからも俺に君を守らせて」
「え?」
「ずっと傍にいるよ」
気まずい空気になると思っていたのに、先生は微笑みながらいつもと少しも変わらず、私の欲しい言葉をくれた。
おかしい。
確かに先生の言葉は嬉しいけれど、菱川先生の気持ちはどうなるのだろう。
「そんな簡単に、私のことを受け入れないでください」
私の"好き"は、先生にとってそれほど特別なものではないのかもしれない。
もしかしたらこれまでも生徒に好意を抱かれたことがあって、彼にとって驚くことではないのかもしれないけれど、この気持ちはそんな軽いものでないと分かって欲しい。