雨宿り〜大きな傘を君に〜

シャンパンのお代わりをついでもらいながら、お腹をさする。さすがに食べ過ぎた…。


「お腹も満たされたし、ハナちゃんからのプレゼント開けてもいい?」


「はい!」


私もまだ先生からもらった時計を開封していない。いつぶりだろう。綺麗にラッピングされた贈り物を受け取ったことはもう随分昔のことのように思う。


「空と雨」


敢えて本カバーをかけてもらわなかったため、すぐに見えた表紙は曇天から降り注ぐ雨の中に立ち尽くす人物と、その人物に傘を差し出す2人の登場人物が描かれていた。

決して明るい表紙とは言えず、物寂しさが漂う切ない色彩だ。


「どうしてこの本にしたの?」


「あの日の私と先生みたいで」


【恋は雨音とともに】
それが本のタイトルで、恋愛小説だってことは想像できる。できればハッピーエンドがいいな。


「俺も同じことを思ったよ」


真っ直ぐ私の目を見て、先生は微笑んだ。

同じこと、考えてくれていたんだ。



「こっちは晴天のイラストの栞かぁ。ありがとう」


高価な時計に比べたら、取るに足りないものだ。


「い、いえ…大したものでなくてごめんなさい。社会人になって、初任給をもらったら私も高価なものを送ります!大学に行けたら、バイトもするつもりで…」


だから、もう少し待っていて欲しい。
早く大人になるから…。


「時計、つけてあげる」


「あ、はい!」


慌ててリボンを解き、立派な箱を開けると菱川先生は私の隣りに来て、ゆっくりと腰を下ろした。

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