雨宿り〜大きな傘を君に〜
菱川先生のくれた優しさに応えられるような立派な大人にならないと、唐突にそう思った。
夢や目標がないことを嘆いているだなんて、なんて贅沢だろう。
「冗談でも嬉しいです。ありがとうございます」
「本気だよ」
「友達は分かります、でも家族と恋人って…」
「どんな呼び名でも関係でも構わない。ただ俺は君の味方だって分かって欲しいんだ。もう何もないなんて、言わせない」
「……菱川先生」
こんなにも私のことを思ってくれている。
先生の気持ちは確かに私の心に響いた。
それと同時に、有明沙莉さんの言葉も思い出した。
"私、アイツの教え子なの。生徒に手を出すってヤバいよね。アンタも気を付けな"
菱川先生にとって、教え子と親しい関係になることはそれほど大きな問題ではないのかもしれない。もしかしたら彼女の他にも…。
それでもいい。
先生が傍に居てくれるのなら、
胸いっぱいの寂しさから解放されるのであれば、
同情だってなんだっていい。
「私をひとりにしないで、菱川先生」
「当然でしょ」
彼の本心を探らず、今だけは優しさに溺れていたいと思ってしまった。