雨宿り〜大きな傘を君に〜
約束通り珈琲1杯で切り上げた私たちは塾に向かう。
「珈琲、奢ってくれてありがとうね」
「気にすんな!あ、あのさ…」
歩道橋を渡りながら崎島は言った。
「俺がおまえに付き纏ってたこと、菱川が知っててさ。色々と釘を刺されたんだ。だからこれから遭う時は菱川にバレないようにして」
「菱川先生?崎島になんて言ったの?」
聞いてないよ。
「おまえの家の近くで待ち伏せしたその翌日に、これ以上、大野に関わろうとするなって言われた。だからさ、たかが高校生のことに大人が入って来んなよ、って言い返したんだ。そしたら、"おまえはこんなことで将来を潰したいのか?"って聞かれた。よく意味分からなかったんだけど、"たかが塾講師の俺にはもう未来なんてないから、出るとこ出て、徹底的に崎島を潰すよ"って笑顔で言われたんだ」
直接、崎島に忠告してくれていたんだ。
過保護すぎるよ。
「いつも無表情な菱川が笑うから、俺ビックリしてさ…悪寒がしたわ。だから俺たちのこと、菱川には言わないで。なんか怖いから」
どうしよう。
早速、今日のことを菱川先生に報告しようと思っていたのに。秘密にしないといけないのかな?
「大野、菱川と親しいの?」
「え?」
「生徒に無関心な菱川が、大野を庇うなんておかしいじゃん」
くるりと身体ごと私の方を向いた崎島の怪しむ視線に、慌てて首を振った。