心の中に奏でる、永遠の向日葵


「私は分かるわよ。この前、空川が音楽の授業の前に弾いた曲よね?」
 
「ああ。そういう事だ」
 

水田が、「へえ」と感嘆の声を出した。
 

「そんな名前の曲なんだ。初めて知ったよ」
 
「タイトルは、中々一般の人には広まらないからね」
 

俺がそう答えると、伊藤が苦しそうな声を出して、腕を猛烈な勢いで動かす。
 

「ああ、もう。何でもいいから、早く弾けよ!」
 

それが弾いてもらう人に対する態度か、と心の中で呟いた。

が、言う暇もなく、全員が俺の演奏を待つように、無言でピアノと俺を交互に見つめはじめる。
 

俺は、改めてピアノと向き合うと、鍵盤に指を置いた。
 

大丈夫。もう、心が真っ白になんかなったりしない。 
 

俺は、自分の指を動かし始めた。
 

この前、この曲を弾いたときは、重苦しい感情が織り交ざってしまい、途中で止めてしまった。でも、今は違う。
 

難しい曲だが、集中しすぎて、ピアノを楽しむという事を忘れてはいけない。
 

目を瞑る。浮かんできたのは、初めてピアノが楽しいと気づいたときにいた、あのひまわり畑だ。
 

ゆっくりとひまわりが揺れていく。ポカポカと温かい感情を、俺の心の中に作り出していく。
 

向日葵はピアノを弾くと、夢のような世界を奏でれることが出来ると言っていた。


もしかしたら、俺は今、この前のひまわり畑の世界を奏でているのかもしれない。



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