ツインテールの魔法
「……大丈夫」
そうは言っても、紘の服の裾を掴む手は震えていた。
しかし、夏音は彼に襲われかけたことに怯えていたのではなかった。
「……ママに……間違えられた……」
「夏音?」
夏音は顔を隠すために紘に抱きつく。
母親と父親は亡くなっても、母親の浮気相手がいなくなったわけではないと、今初めて実感した。
こうして会うことだってあるのだ、と。
そのたびに母親に間違えられ、家族愛を削られていくのかと思うと、言葉には出来ない恐怖を作り出した。
「ノーンちゃん」
暗く俯く夏音の顔を、蒼羽が覗き込んだ。
だが、夏音は顔を逸らす。
夏音の長い髪が蒼羽の顔に当たる。
「……ノンちゃん、魔法かけてあげる」
そう言いながら、夏音の髪に触れた。
「魔法……?」
蒼羽は夏音の後ろに立ち、夏音を控え室に入れる。
「ノンちゃんってツインテールにすると笑顔になれるって言ってたでしょ?それって、魔法みたいじゃない?」
「……蒼羽くん、女の子みたいなこと言うんだね」
鏡の前に座らされた夏音は弱々しく笑う。
それでも笑ってもらえたことが、蒼羽は嬉しかった。
「あー、バカにしたなー?」
「そんなことない。素敵だと思う」